賃貸事務所 港区の「裏ワザ」って?
「もう二割程度値引いてくれってこれだけ頼んでるのに、いっさいこっちの言い分は聞けないというんだったら、まあしかたないわな、いちおうここまではそっちが頭下げて頼むから値引きの話にも応じてきたわけだ。
せっかくだからその経緯をこのマンションにお住まいの方たちに広く知っていただきましょうかね。
明日にでもレポートにして、一階の掲示板に貼り出しときますよ」こういった悪質な買い主に対しては毅然とした態度でのぞめばよいものを、腰が引けてしまった営業マンは、さらなる値引きの要望に応じたという。
業者は、法的にはとやかくいわれる筋合いはない、と割り切っているようでいて、やはり先に買った人たちに値引きがばれて、騒動が起きることを極度に恐れているのである。
契約済みの人が、こういうカゲの値引きについてはとても神経質になっているのに、一方ではまったく無頓着としかいいようがないほど見すごしているのが、業者による建物そのものの変更である。
その背景には、多くの買い主がマンション販促用の営業ツールについて勝手に誤解していることがうかがえる。
青田売りを実現するための販促用ツールのうち、三種の神器といわれるのが、モデルルーム、パンフレット、そして閲覧設計図書である。
情報量の多さでは設計図書がトップで、以下パンフレット、モデルルームの順になるはずが、ほとんどの購入希望者の興味の順はまったく逆のようだ。
モデルルームを見学しただけで大満足、買うと決めてしまう人が世の中には多い。
いくら精密なモデルルームをつくったとしてもそこは実物ではないわけだから、わからないことだらけのはずなのに、である。
たとえば生活するうえでとても気になる設備の使い勝手など、モデルルームでは実感できるはずがない。
キッチンにしてもトイレにしてもバスルームにしても、見学はできるわけだから、たしかに見栄えは確認できる。
けれども、使い勝手の良し悪しはもちろんのこと、臭いや音がどのように発生してそれがどう処理されているかというような、使用上で気になるポイントについては知ることができない。
気になる音の問題も、やはりモデルルームではチェックしょうがない。
上の階からどのくらい音が響くのか、隣からどれほど声が伝わってくるのかは、実感しょうがないのだ。
室内の明るさだって、すべての住戸で条件がちがうわけだから、想像しろというほうが酷な話だ。
昼間の日当たり具合による各住戸ごとの明るさなど、つかめるはずがない。
パンフレットの図面を見て、不幸なことに大きく聞いた窓の目の前が立体駐車場であったとしても、それがどの程度日照に影響を及ぼすのかはわからないし、部屋の外に要チェックのそういった施設があることさえ気づかない人のほうが多いのだ。
もちろん眺望や風通しといった、住み心地を語るうえでの必要条件について、想像するのはさらにむずかしい。
建物が竣工してから買った住戸を見学したところ、思っていたよりもずっと隣の建物が接近していて、一日中ブラインドを下ろしていないことには隣からの視線が気になってしかたがない、というようなこともあるわけだ。
ちょっと考えただけでも、これだけわからないことずくめなのに、それをわかっていながら業者は、買い主に物件を理解させようとする。
額に血管を浮き立たせて必死に説明してもらっても、結果は聞くだけヤボというものである。
「ご理解いただけましたでしょうか」という営業マンには、「理解できるわけないでしょ」とお答えするしかない。
営業マンだって本音は、そりゃそうですよね、といいたいのだ。
押しつけで理解したつもりになってもらうと、後になって説明とちがうと訴えられるようなことにもなりかねない。
だから、どうしても説明が不足してしまう部分や誤解を生みやすい部分については、売買契約締結後クレームが出ないように、分譲業者は特に慎重に気を遣っている。
実際、見本品として見せたものと現実に販売したものとが異なれば、それは有無をいわさず欠陥商品であるとする判決も過去にはあるからだ。
青田売りの分譲マンションの場合、契約後、引き渡し及び残金決済までに分譲業者に契約不履行があった場合、契約書には当然、損害賠償について説明されている。
「売り主の違反により契約が解除された場合には、売り主は受領済みの手付金を全額、買い主に返還し、かつ手付金相当額を違約金として買い主に支払うものとする」分譲業者とてバカではない。
このように自らを語ると同時に、いざというときには逃げがきくよう、前もって手を打っているのだ。
たとえばパンフレットにある外観パースには必ず断り書きがあるのも、こういった配慮からである。
「この外観図は図面をもとに描き起こしたもので、実際とは多少異なります」たかが外観ごときでそんなに慎重になる必要はないのでは、と思いきやそうでもない。
事実、外壁の色が、契約したときにパースで説明されたものと、現実にできあがったものとが明らかにちがうとして、買い主が契約解除を主張した例もある。
昭和四六年(一九七一)の建設省通達にも、重要事項説明内容の追加として、建物の内装と外装についても、塗装の状況等を説明することが義務づけられている。
となると、この点に関する説明にウソがあれば、業者は不動産業者を取り締まる法律、宅地建物取引業法(以下、宅建業法)違反に問われるわけだ。
話し合いの結果、外壁の色はたしかにマンション購入を動機づける重要な要素であり、それが共用部分であるかぎり簡単には変更できないので、分譲業者はしぶしぶ契約解除に応じたのである。
そうなると結局、業者にしてみれば説明義務のないことは聞かれないかぎり、極力暖昧にしておいたほうが自分のリスクは低くなる。
そして暖昧な部分が増えるということは、工事中、すでに契約済みの人になにも断りなく変更できる内容が増えることにつながるわけだ。
買い主に断りなく変更するなんてそれこそ違法行為ではないか。
ある人はこう尋ねるだろう。
たしかにこのような手前勝手な理屈で、業者が工事内容を工事中に変更できないように、宅建業法上ではいくつかの制約が設けられている。
一つは、宅建業法第三三条にある広告開始時期の制限。
さらに、同法第三五条一項五号にある工事完了時における形状・構造等の書面による説明。
そしてもう一つが、同法第三六条にある契約締結時期の制限である。
つまりこれらの法律をわかりやすくつなげて説明すると、建築確認等の役所による図面審査が通っていれば広告を行うことができる。
そのかわりパンフレットを用意し設計図書等をきちんと閲覧できるようにすることで、工事が竣工したら建物がどういう形状でどういう構造のもとに建つのかを分譲業者は買い主に対して説明しなければならない。
けれども逆にこういう説明さえすれば、後は工事に着手していようといまいと、建築確認等が取れていれば自由に売買契約締結ができる、というのである。
これら法律上の制限の根底には、建築確認まで終了していれば建物について大きな変更はまずありえないだろう、という考え方がある。
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